『パリの恋人』はファッション好きには堪らない映画だが、もう一本オススメがある。
Pen Onlineの「大人の名品図鑑」でフレッド・アステアを書かせてもらいましたが、ファッション好きならば、誰もが知る人物。この連載を書くためにも改めて何本もの彼の映画を観直しましたがどれも素晴らしい作品ばかり。中でも私がいちばん好きなのは『パリの恋人』です。1957年に制作されていますので、もう60年以上前の作品です。もちろん、私は57年の公開時ではなく、テレビの再放送で観ましたが、そのときは本当にあまりにお洒落で、映画にも出てくるセリフですが、「ス・ワンダフル! マーベラス!!」。
舞台がファッション雑誌ということもありますが、映画のタイトルシーンから、当時のニューヨークやパリの様子まで、すべてがお洒落なんです。ファッション好き、雑誌好きにはぜひとも観ていただきたい作品です。感じることがいろいろとあるはずです。
アステアがこの作品で演じている役柄はフォトグラファーです。彼のモデルとなったのは、当時、いや今も著名な写真家のリチャード・アヴェドンです。ストーリーの下敷きになっているのも彼と最初の妻との話という説もあり、劇中でヘプバーンを撮ったポートレイト写真もたぶん彼の手によるものでしょう。ジバンシィを着たヘプバーンはため息ものですが、アステアのスーツやジャケットの着こなしも素晴らしい。完全に時代を超えています。仕立てがどうとか、デザインやディテールはどうとか、アステアの身のこなしを観ていると、そんなことはどうでもいいという気分になります。着る人に本当にフィットするスタイルならば、どんな服でも時代を超えていくことを彼の着こなしが教えてくれるのです。
プロの写真家が参加した映画で思い出すもう1本が『アイズ』(1978年)です。この映画に参加したのがセックスとバイオレンスを映像化したヘルムート・ニュートン。『VOGUE』は、20世紀をもっとも騒がせた写真家のひとりと書いています。
主人公ローラを演じたのがフェイ・ダナウェイですが、彼女の役柄はニューヨークで活躍する写真家。映画の中でギャラリーに彼女の作品が並ぶシーンがありますが、その写真もニュートンのものです。70年代のディスコサウンドが流れる中、ニューヨークの街中で激突して燃えあがるクルマをバックにセクシーなモデルを撮影するシーンがありますが、たぶんそれも当時ニュートンがよく行っていた撮影方法だったのでしょう。フェイ・ダナウェイがカメラを持ちながら地面すれすれに座り込み、スカートから太腿を露わにして撮影しますが、本当にカッコいいのです。まさに70年代のニューヨークという感じです。
この映画を私が観たのは公開された1978年。初めて訪れたアメリカのLAのウエストウッドで、初めて海外で観た映画です。街中に、フェイ・ダナウェイの顔がアップになったポスターが貼ってあり、それに惹かれて夜、夕食を食べた後、映画館に向かったのです。
実は『アイズ』はミステリー映画です。フェイ・ダナウェイ演じるローラのまわりの人物が次々と殺されていくというストーリー。アメリカで観ましたので、もちろん言葉は英語。言葉がよくわからない私でもそうした筋立ては十分わかりましたし、犯人もわかっているのですが、その謎解きが理解できませんでした。いつか観て何故そうなったのかということを知りたいとずっと思っていましたが、残念なことに映像がDVD化されていません。ケーブルTVでやっていましたが、残念ながら見逃してしまいました。もう一度やってくれないかなぁ。アイツが何故犯人なのか、ローラのアイズ=眼はどうしてそうなったのか。
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